いま読みたい本
環境問題翻訳チーム・ガイア 辻麻里子

「自然と文明、その関係を考える本」を読みたい

 
 3月11日、東日本を襲った未曾有の大地震とそれに伴う東電福島第1原発の重大事故を、哲学者の内山節は「自然の災禍」と「文明の災禍」だと言った。漁 業や農業など、自然環境にみずからの暮らしを委ね、自然と共生して生きていた人々の多くが、大地震と津波の被害に遭った。そして、科学技術の粋を集めた筈 の原子力発電所が暴発し、その人たちをさらに苦しめることになってしまった。まち全体が流されてしまった映像をテレビで繰り返し見ながら、自然環境と人 間、文明と社会、その関係をもう一度きちんと考えなくてはと思った。復旧復興のなかで、私たちは何を大切に考えていけばいいのか。そのために今、読んでみ たい本。

題名:Dust Bowl: The Southern Plains in the 1930s
著者:Donald Worster
著者紹介: カンザス大学教授、専門は環境史、エコロジーの思想史
出版社名:Oxford University Press
発行日:2004年(1979年に発行されたものを、Oxford University Pressが25年ぶりに再刊)

内容:The Dust Bowl とは、1930年代、米国中南部で断続的に発生した砂嵐を指す。何十年にもわたる農業の過剰なスキ込みによって大草原地帯の草が除去され、日照りで土が乾 燥し、それが土埃となって風で吹き飛ばされ巨大な黒雲となった。原因のひとつが生産過剰。農家は利益を得るために、農業の開拓を自然の限界まで引き上げ、 耕作不適格地までもが農地に転用された。1935年4月14日は"黒い日曜日"とも呼ばれ、ダストボウルの期間を通じて最悪の "黒い吹雪" が20回も発生し、広い範囲に災害をもたらした。目撃者によれば、5フィート前が真っ暗で見えなかったという。ルーズベルト大統領は就任して3ヶ月で自然 環境のバランスを修復する政府プログラムを実施。アメリカ合衆国政府は、土壌保護局と自然資源保護局を設立した。

この災害により、テキサス州、アーカンソー州、オクラホマ州など多くの土地で農業が崩壊し、農家は離農を余儀なくされた。約350万人が職を探しに移住し た。

Worsterの丁寧な語り口は生態学と人間活動、経済の視点から、この人類史上最大の人間起源とも言われる環境破壊を、鮮やかに描き出し、読者に自然と 人の暮らし、文化、科学技術、文明について深く考えさせる。
最初の刊行から25年たって再刊された本書にはWorsterが「あとがき」を追加している。その中で、著者は21世紀の政治的、経済的、生態学的問題 が、Dust Bowlと何ら変わらぬ要因を含んでいると指摘すると同時に、どのような解決策があるかも示そうとしている。

環境史の古典というべき一冊。

題名:Collapse: How Societies Choose to Fail or Succeed
著者:Jared Diamond
著者紹介:生物地理学者、『Guns, Germs and Steel』(邦題『銃・病原菌・鉄』)でピューリッツァー賞受賞
出版社: Viking Adult (2004/12/29)
発行日: 2004/12/29

内容:(Publishers Weeklyに掲載された書評の訳をAmazon.co.jpのwebsiteから転載)
生物地理学者ジャレド・ダイアモンドは、ピューリッツァー賞受賞のベストセラー『Guns, Germs and Steel』(邦題『銃・病原菌・鉄』)の中で、人類のさまざまな文明の根本的ルーツを植物相、動物相、気象、地理に求める壮大な見解を展開した。自らの 環境基盤を時には致命的なまでに蝕んでしまう社会を比較研究した魅力的な本書では、そのビジョンが終末論的な含みを帯びている。著者は、イースター島、古 代マヤ文明、グリーンランドのバイキング植民地など、太古の人々の経済的・社会的崩壊や滅亡の事例を詳しく検証し、そこに見られる人口増加、過剰農耕、過 放牧、乱獲のパターンを探っている。これらは、干ばつや寒さ、厳格な社会規範、戦争などによって助長されることが多く、やがて森林伐採、土壌侵食、飢餓な どの悪循環をもたらし、食糧源となる動植物の消滅によってその悪循環にいっそう拍車がかかるのだという。彼はさらに、米国モンタナ州、中国、オーストラリ アなど現在環境問題を抱えている地域を取り上げ、技術的に進歩した今日の地球規模の文明は、太古の原始的な孤立コミュニティーを苦しめた諸問題に対してほ とんど手つかずの状態だと指摘する。工業化著しい地球を覆い尽くさんばかりの大規模な環境破壊については、かなり悲観的な見解も述べているが、その一方 で、ニューギニア高地の旧式ながらじつに多様で効率のいい農業や、日本の徹底した森林保護プログラムなどに見られる環境維持の事例、また多少説得力に欠け るものの、近年の緑の消費主義(環境問題を考慮した購買活動)構想に希望を託している。人類学から動物学まであらゆる事柄の優れた解説者であるダイアモン ドは、こうした数多くの衰退と崩壊の歴史を刺激的に鋭く語るだけでなく、その背景を科学的に明快に説き明かしてもくれる。読む者の興味と不安をかき立てな がら、人間と自然を結びつける固い絆を思い出させる1冊である。