「へえ、おかあさん、これから気張らせてもらいます」
「もう初桃さんを怒らせんといてや。ほかの子ぉかて、あんじょうやってますのや。あんたにできひんことあらへんえ」
「へえ、おかあさん……ええと、一つだけ聞いてもよろしおすやろか。うちの姉の行き先を知ってはる人おへんのか、ずっと気になって、あの、手紙でも出した
い思うてまして」
(アーサー・ゴールデン著小川高義訳『さゆり』文藝春秋社p71〜72)
ほかの科目では、おカボも三味線ほどの体たらくではありませんでしたので、見ているほ
うも救われました。たとえば舞のお稽古ですと、全員そろって動きますので、一人だけ目立つということがありません。それにおカボも下の下というわけではな
く、ぎこちないながらに、どことなく味のある動きをしていたように思います。
(上巻p82)
It was a relief to me that Pumpkin’s other classes weren’t as painful
to watch as the first one had been. In the dance class, for
example, the students practiced the moves in unison, with the result
that no one stood out. Pumpkin wasn’t by any means the worst
dancer, and even had a certain awkward grace in the way she moved.
(原文ペーパーバック版p57)
まことに粋をきわめたというべき美しさでしたが、それもそのはず、私が知らなかっただ
けのことで、日本でも指折りの格式あるお茶屋さんに来ていたのでした。いいえ、お茶を飲みに行く店ではございません。男の方が芸者をあげてお遊びになると
ころがお茶屋なのです。
(上巻p115)
It was exquisitely lovely― as indeed it should have been; because
although I didn’t know it, I was seeing for the first time one of the
most exclusive teahouses in all of Japan. And a teahouse isn’t
for tea, you see; it’s the place where men go to be entertained by
geisha.
(原文ペーパーバック版p81)