おすすめしたい韓国の本
福田 知美
北朝鮮の人々はどのように生きているか
 
 昨今の日本における韓流ブームには目を見張るものがある。ドラマから始まり美容、食事、健康法、さらにはアイドルグループまでもが日本人を虜にし、今で は日本のメディアにとって韓国はなくてはならない存在となっている。しかし、各方面での韓流熱とは相反して、書籍の分野では美容や健康に関するものを除い て韓国の本がまだまだ少ない。今後、「翻訳通信」の場を借りて、私が興味深かった本や今韓国で話題の本を紹介し、少しでも多くの読者の方に韓国の良書を 知って頂きたいと思う。
 今回は『北朝鮮の人々はどのように生きているか(原題:북녘사람들은 어떻게 살고 있을까?)』という本を紹介する。この本は、南北の統一を目指している「民族21」という会社が北朝鮮の人々の日常生活を調査し記録したものである。その 記録は北朝鮮の人々が生まれてから死ぬまでに至り、普段私たちが日本のメディアだけでは知ることができないものばかりだ。
 北朝鮮の人々といえば、外国に住む私たちから見ると少し変わった、何を考えているのか理解がしがたい印象がある。しかし本書を読み進めていくと、北朝鮮 の人々と私たちは類似している点が数多くあることが分かる。例えば次のような文章がある。
「ジョンヒ(娘)は一生懸命取り組んだ子どもや良いことをした子どもに幼稚園から送られる赤い星型の紙をよくもらってきては自慢していた。赤い星をたくさ ん集め(中略)学習帳をもらったこともあった。学校まで迎えに来た私を見るとすぐに受けとった学習帳を高く掲げ、その意気揚々とした表情と言ったら…」 (第一章「生まれてから託児所、幼稚園まで」から抜粋)
 これは北朝鮮のある母親が抱いた自身の娘へ対する思いである。一生懸命取り組む子どもと我が子の頑張りを喜ぶほほえましい親子の姿は日本も北朝鮮も変わ らない。また北朝鮮は結婚に対しても私たちが想像する以上に自由だ。いわゆる“できちゃった婚”もよくあり、また離婚や再婚に対しても大変開放的で社会的 に受け入れられないということはない。
 近年、北朝鮮に関する本と言えば政治的な内容や奇をてらった内容のものがほとんどであるため、生まれてから死ぬまでの市民の日常生活に焦点を当て、批評 することなく淡々と記録している本書は大変貴重であると言える。本書を読んで北朝鮮の人々の日常の喜びや悲しみ、葛藤などの“人間らしさ”をぜひ読者の皆 さんに感じて頂きたい。
題名:北朝鮮の人々はどのように生きているか
原題:북녘사람들은 어떻게 살고 있을까?
頁数:318頁
著者:民族21
出版社名:図書出版 선인
発行:2004年6月29日
著者:民族21株式会社(2000年8月に設立した会社。その事業は言論、出版、展示、広報、対北事業コンサルティングなど多岐にわたる。本書は民族21 が刊行している「月刊 民族21」で1年間にわたる連載をまとめたもの)

『北朝鮮の人々はどのように生きているか』表紙

表紙


本書に対する韓国読者の感想(韓国の検索サイトNAVER「ネチズンのレビュー」より)
 大学の授業の参考書として読んだ。北朝鮮の人々の日常生活が書かれた話の中で私たちと似ている姿、違う姿を知ることができた。北朝鮮の人々は私たちとは 違う人間ではなかった。彼らは私たちよりも劣っているのではなく、少し違う生き方をしているのだと考えるようになった。(男性)

 北朝鮮に対する本はだいたい歪曲されている。多くの北朝鮮に関する本の中で、大きく歪曲されていない北朝鮮の日常を知ることができる数少ない1冊だ。中 でも2004年に発行された点に驚いた。政治的・経済的危機を象徴する苦難の時期を乗り越えた後の北朝鮮人の記録であるため、最近の北朝鮮を理解する上で 本書はきっと役に立つだろう。(女性)
  (2010年10月号)