おすすめしたい韓国の本
 福田知美

地図の外に行軍せよ

 ここでは、私が興味深いと感じた韓国の本や今、韓国で話題の本を毎月紹介していく。こ の記事を通して、少しでも多くの読者の方に韓国の良書を知っていただき、韓国に親しみを持って頂ければ嬉しく思う。今月は『地図の外に行軍せよ』という本 を紹介していく。

本 書の概要
 本書は、韓国で「ネチズンが会いたい人1位」「平和をつくる100人」などに選ばれ、2004年には「YWCA若い指導者賞」を受賞し た女性、ハン・ビヤが、国際NGOワールド・ビジョンの一員として緊急人道支援を行った5年間の報告書である。5年の間、彼女が派遣された国 は、アフガニスタン・マラウイ・ザンビア・イラク・シエラレオネ・ネパール・パレスチナ・イスラエル・2004年スマトラ島沖地震の被 災地・北朝鮮など多岐にわたる。彼女の主な任務は広報で、現場の写真と記事をワールド・ビジョン国際本部、韓国事務室、世界の重要な通信社及びメディアに 送り、できる限り多くの現場にインタビューすることだった。コード・レッド(「危険」を意味する)が発令された危険な場所で一晩を過ごしたり、無数の地雷 が埋められた場所を移動するなど、常に危険にさらされながら任務を遂行している彼女の姿が記録されている。

1本 の電話から緊急人道支援要員に
 世界一周旅行を終え中国で勉強中だったハン・ビヤに1本の電話が入った。緊急人道支 援のチーム長として働かないかというオファーだった。彼女が緊急人道支援要員として難民を助けることを決意したのは、弱者の立場を理解していたからだとい う(中学の時に父親を亡くし、経済的に苦労したため)。救護の世界は競争の世界ではなく、愛や分かち合いの世界であり、そのような世界に足を踏み入れてみ たかった、と彼女は語る。実務経験が全くないことからチーム長を務めることに不安を感じるが、最初から専門家である人は1人もいない、と自らを奮い立た した。

生 きてくれてありがとう
 ビヤのチームがアフガニスタンのある村に行った時、そこには栄養失調で今に も意識を失いそうな子供達がいた。いてもたってもいられなくなったビヤは子供達を医者に診せるが、生き延びるのは難しいと伝えられる。ところがビヤ達の懸 命な看病の結果、1人の子供が意識を取り戻して笑顔を見せた。ビヤ達がその子供に行ったことは、複雑な手術 でも高い治療でもなく、2時間に1回ずつ粥を食べさせることだった。全ての子供をその場で救うことは難しいが、自分達の努 力によって生き延びる命も確かにあると彼女が実感した瞬間だった。

体 の価値は0円
 驚くべきことに、万が一、緊急人道支援要員が人質として捕まったとしてもそ の体の価値は0円だ。もし人質をとるような勢力に金を渡せばその集団の力が強くなり、結果的にワールド・ビジョンが救うべき人々を苦しめてしまうことにな るからだという。そのため職員が人質として捕まれば、何とか安全に解放されるよう努力はするが、犯人側が金を要求した時点でもうそれ以上は交渉不可能にな る。それ以降のやり取りは事件が起きた国とその職員の母国関連者の間で協議される。幸い、ビヤの任務中に人質になった職員はいなかったが、緊急人道支援要 員はこのように非常にシビアな環境にいつも身を置いているのである。

地 図の外に出ていこう!
 本書は緊急人道支援要員の5年間の報告書であると同時に、 小さい力で世界を変えようとする全ての人に送るハン・ビヤからのエールでもある。彼女は韓国に生まれながらも、その活動の場を自国だけにとどめず世界中を 舞台に活躍してきた。韓国人やアジア人としてではなく、世界人として世界中の全ての人々と兄弟・姉妹になりたいと願うハン・ビヤ。彼女はこれからも国境に 縛られることなく、そのパワフルな行動力で世界中に愛と分かち合いの精神を伝えていくことだろう。

題名:地図の外に行軍せよ
原題:
지도 밖으로 행 군하라
頁数:307
著者:ハン・ビヤ
出版社名:図書出版青い森
発行:
200598
著者紹介:
1958年、ソウル生まれ。弘益大学英文学科卒業後、アメリカのユタ大学コミュニケーション学科 で国際広報学の修士課程を修了。